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炭素繊維のLCIデータの概要

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エグゼクティブサマリー

炭素繊維の LCI データの概要

炭素繊維協会 2022年10月

 炭素繊維協会 (JCMA) は、炭素繊維のライフ サイクル インベントリ(LCI)データについて1999年の初公開以来、2004年、2006年、2012年に見直しを行いました。2006年以降は実際の炭素繊維製造工程で得たデータを採用しており、他組織の公表データがモデル計算またはラボ/パイロット施設で得たデータを基にしている点と大きく異なります。

 近年、製品の使用時のみならず素材製造・組立・廃棄プロセスも含めたライフサイクルでの環境影響評価の重要性の高まりを受けて国際規格 (ISO 14044) が制定されました(本調査は同規格に準拠しています) 。ISO14044で規定される LCA (ライフ サイクル アセスメント) は「目的及び調査範囲の設定並びにインベントリ分析」、「影響評価」、「解釈」の 3つで構成されますが、本調査では「目的及び調査範囲の設定並びにインベントリ分析」だけを対象としています。しかし消費エネルギー (累積エネルギー需要)、CO2、NOX、SOXなど環境影響物質のインベントリ分析を実施していることから、他の公開データとの比較が可能です。

 この調査 (LCA 用語では「サブシステム」) では、PAN系炭素繊維製造までの分析を行っており、対象とした炭素繊維は弾性率230~250GPaの高強度繊維、フィラメント数12k(800tex)~24k(1600tex)です。また本調査は素材のインベントリ分析を多数手がける株式会社産業情報研究センター(WIC)に炭素繊維協会が委託して行いました。この調査で使用したデータ(フォアグラウンド データ)は、国内PAN系炭素繊維メーカー3社(東レ、三菱ケミカル、帝人)の2017年実績をもとに算出しました。なお調査対象とした炭素繊維の同年の日本における生産量は6,994トンであり、2017年の国内炭素繊維生産量の約40%を占めることから、航空・宇宙機器、自動車用など炭素繊維の主要な市場に供給される品種として、十分、代表性あるデータであると判断されます。

 図1に、本分析の計算の対象範囲とフォアクグラウンドデータを収集したPAN系炭素繊維のシステム境界を示します。本調査では原料まで遡及する「cradle to gate」を適用しました。炭素繊維の製造工程は、重合、紡糸、焼成の3つの工程で構成されており、フォアグラウンド データは、ユニット プロセスにおいて炭素繊維1 kg あたりで計算しました。原材料(アクリロニトリル、溶剤など)、電力、蒸気の投入については、遡及計算(一部はバックグラウンドデータに基づく)していることから、最終的に、天然資源まで遡及したデータになります。これらのデータを基に、消費エネルギー (累積エネルギー需要)、CO2、NOXおよび SOX排出量の4項目についてまとめました。

  • 炭素繊維1kgの製造に係る消費エネルギー(累積エネルギー需要)は318.2 MJです。さらに、フィードストックエネルギー32.1 MJを加えると合計350.2 MJになります。
  • CO2と、NOX、SOXの排出量は、それぞれ、19.849 kg/kg-CF、0.0353 kg/kg-CF 、0.0161 kg /kg-CFです。

 本調査は、炭素繊維(および複合材料)に関わる産業界及び研究者にとって実際の炭素繊維製造工程で得たデータに基づく点において、大変貴重な情報です。また調査結果は炭素繊維のLCI(およびLCA)に関する他の公開データとの比較が可能となるよう可能な限り詳細な情報を掲載しております。

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図1 インベントリデータの計算範囲とPAN系炭素繊維のシステム境界

謝辞
炭素繊維協会は、以下の3名の先生方に対し、報告書の英訳と本要旨の作成に尽力してくださったことに深く感謝申し上げます。

高橋淳, 東京大学(日本)
イグナス・ヴェルポスト、ルーヴェン・カトリック大学(ベルギー)
ヴェロニク・ミショー、EPFL/スイス連邦工科大学ローザンヌ校(スイス)
(敬称略)